ディプロマミル(学位工場)と違法性

                  小島 茂(静岡県立大学教授)

ディプロマミルを取り締まるアメリカの州法


                    
 ディプロマミルの偽学位の利用および製造販売はアメリカのいくつかの州では違法になる。以下、具体例である。

(1)オレゴン州法では、ディプロマミルの学位を就職に利用することは違法
である。
"Under Oregon Law, using a diploma-mill degree to get a job is illegal."
(http://chronicle.com, Volume 50, Issue 42, Page A8)

(2)イリノイ州、インディアナ州、ニュージャージー州などいくつかの州は2004年偽学位の使用を犯罪とし、他の2,3の州も立法化を進めている。"A handful, like, Illinois, Indiana, and New Jersey, have recently criminalized the use of fake degrees, and legislators in a few other states are trying to do the same."(http://chronicle.com, May 21,2004)

(3)ノースダコタ州は2004年、偽学位の製造を重罪とし、最長5年の禁固刑と最高5千ドルの罰金を課す法律を可決した。他方、就職、昇進、入学のために偽学位を利用すると最長1年の禁固刑と最高千ドルの罰金が課される。"Norh Dakota passed a law earlier this year that makes manufacturing a fake degree a felony, punishable with up to five years in jail and a $5,000 fine. Using a fake degree to get a job, a promotion, or admission to a college is a misdemeanor, publishable with up to a yearin jail and a $1,000 fine."

(http://chronicle.com, May 21,2004)


ディプロマミルの学位利用は違法か?    
               
読者:Degree Mill の学位を使うことは倫理的には許されないものだということは明白なのですが、本当に違法なのでしょうか?

筆者:例えば軽犯罪法には外国の偽学位の利用は違法と書いてありますので、これを適用すれば違法になります。ホテルのチェックインのさい偽名で書いた場合、文書偽造という犯罪になります。多くの人はそうしても咎められませんが、警察が容疑者を取り調べたいときは、とにかく逮捕して連れてくる必要があり、そのさいホテルに張り込み、チェックインの名前を見て、 文書偽造で捕まえ、取り調べることがあります。オウム真理教の幹部にもこうしたやり方で逮捕され、取り調べを受けました。要は適用するかどうかの問題だと思います。

読者:なるほど、法律をどのように解釈するかによる、ということなのですね。

学位詐称は軽犯罪法に抵触する  
            
 ディプロマミルの偽学位利用が倫理問題はもとより、軽犯罪法 に触れ違法になりうる。具体的な法令には以下 のように書かれています。

軽犯罪法 昭和23(1948)年5月1日 法律第39号 昭和23(1948)年5月2日 施行 改正 昭和48年法律第105号 -------------------------------------------------------------------------------- 第一条  左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。 十五  官公職、位階勲等、学位その他法令により定められた称号若しくは外国における これらに準ずるものを詐称し、又は資格がないのにかかわらず、法令により定めら れた制服若しくは勲章、記章その他の標章若しくはこれらに似せて作つた物を用い た者

非認定大学の学位利用は違法か?
                      
ディプロマミルの偽学位利用が軽犯罪法に抵触すると前回で述べたところ、読者 より以下の質問があった。

「私の知ってる某英語スクールのオーナーは某アメリカ大(=アクレディテーショ ンのない)「名誉教育博士号」をもらいました。そして、案内やパンフレット類に は「名誉」をとって「教育学博士」(学校の名前も出さず)をなのってます。 知 ってる私からすればおかしいということですが、一般の生徒や父兄はまったく気が つきません。これは法的にはどういうことになりましょう?」

まず、倫理的に問題なのは明白です。とくに教育分野なので憂慮されます。  

つぎに、法的にどうかは、小誌(32)で述べましたように、法の解釈によりま す。オレゴン州をはじめアメリカのいくつかの州なら、 ディプロマミルをふくめ非認 定大学の学位利用は原則違法なので、違法になるでしょう。

日本の場合、上記の法律を厳格に適応すれば違法の可能性があります。テレビ番 組で何人かの弁護士がひとつの問題でも反対の解釈をすることがよくあるので一概 には言えませんが、知り合いの弁護士は、ディプロマミルの偽学位に関して、「売 った方も利用した方も違法(詐欺)」と述べています。

 そのさい、非認定大学によっては認定されていた時期のあるところもあったり、 普通の教育をしていながら宗教など例外的な事情でアクレディテーションを受けて いない特殊な大学もあるので、その大学の現在と過去をよく調べてみる必要がある でしょう。  

非認定大学の学位利用で法的に問題になった有名なケースに、法の華三法行の 福永法眼代表の事例があります。 東京地方検察庁の冒頭陳述書要旨(平成12年10月12日)より 3 各種博士号等の買取利用  被告人福永は、学校設立ブローカー及び資格斡旋ブローカーらに多額の斡旋料 を支払い、ホノルル大学の「地球環境哲学博士号」、パシフィックウエスタン大 学の「芸術学士号」「哲学博士号」等と称する肩書きを取得し、著書及び講演会 において、「生態哲学博士」等と改称して、殊更宣伝に利用した。

http://khon.at.infoseek.co.jp/chosha/h036.html  

この場合、宗教を隠れ蓑にした複合的な詐欺で、被害者が出て告発しました。 逆にいうと、たとえ違法だとしても被害者も現れず、だれも告発しなければ、 問題は表面化しないということです。  ご相談のケースでは、今のままでは問題にはならないでしょうが、父兄や生徒 がオーナーの学歴詐称に気づき、動かぬ証拠を示し告発すれば問題になるでしょう。


非認定学位と違法行為

              小島 茂(静岡県立大学教授)


 ディグリーミルをふくむ非認定校および非認定学位と違法行為についてこれまでもいろいろと問い合わせがあったので、以下簡単にまとめてみた。 

1.医師法により、医学博士であれ、医師免許を持っていない限り、つまり国家資格を持つ医師でなければ医療行為はできない。したら違法になる。

*医師法 
第二章第二条 医師になろうとする者は、医師国家試験に合格し、厚生労働大臣の免許を受けなければならない。
第四章第十七条 医師でなければ、医業をなしてはならない。 第18条 医師でなければ、医師又はこれに紛らわしい名称を用いてはならない。

 ディグリーミル関連では、2005年6月、日本花ヴェール健康学センター株式会社(東京、渋谷区)の社長で非認定大学のホノルル大学の健康科学博士号を持つ足立和子容疑者が末期の子宮癌だった主婦ら6人に診断や薬剤処方などを施し、被害が出て、医師法違反(無資格医業)の容疑で警視庁から逮捕された。

2.栄養士法により、管理栄養士でなければ、栄養指導業務をおこなってはならない。もしおこなったら違法行為になる。

*栄養士法
第6条 栄養士でなければ、栄養士又はこれに類似する名称を用いて第1条第1項に規定する業務を行つてはならない。《改正》平12法0382 管理栄養士でなければ、管理栄養士又はこれに類似する名称を用いて第1条第2項に規定する業務を行つてはならない。

3.医薬品や化粧品等に関して、ウソや誇大な広告宣伝や既述をした場合、薬事法違反となる。

*薬事法8条第66条 何人も、医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布してはならない。《改正》平14法0962 医薬品、医薬部外品、化粧品又は医療機器の効能、効果又は性能について、医師その他の者がこれを保証したものと誤解されるおそれがある記事を広告し、記述し、又は流布することは、前項に該当するものとする。

 ディグリーミル関連では、、「がんに効く」と偽って医薬品成分をふくむ商品を無許可販売し、薬事法違反容疑で、2005年4月、上記、足立和子容疑者が警視庁に逮捕された。
 2005年10月、アガリクス商品の広告をめぐる史輝出版と健康食品会社「ミサワ化学」による薬事法違反事件で家宅捜査。2冊の広告本はフリーライーターの創作で、中国の医学博士号を持ち非認定校の副総長をつとめる師岡考次氏が監修しており、警視庁はライターと監修者を薬事法違反容疑で書類送検した。
http://drugsinfo.jp/contents/iron/ha/iroha3.html

4.認定大学の学位であるとかアメリカでは有名大学であると偽って非認定大学の学位を取得させたもの、あるいはそれを取得して権威付けに利用し欺いて他のものを買わせたものは刑法の詐欺罪に抵触する。未成年者や心が弱っている人を騙した場合は、準詐欺罪になる。

*刑法・詐欺罪 
第三十七章 詐欺及び恐喝の罪
(詐欺)
第二百四十六条  人を欺いて財物を交付させた者は、十年以下の懲役に処する。
2  前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者
も、同項と同様とする。

 ディグリーミル関連では、2000年10月、福永法源法の華代表が、ホノルル大学から「地球環境哲学博士号」、パシフィックウエスタン大学から「芸術学士号」「哲学博士号」を買取し、著書及び講演会において、「生態哲学博士」等と改称して、宣伝利用したことが詐欺罪に問われた。
http://khon.at.infoseek.co.jp/chosha/h036.html

*(準詐欺)
第二百四十八条  未成年者の知慮浅薄又は人の心神耗弱に乗じて、その財物を交付させ、又は財産上不法の利益を得、若しくは他人にこれを得させた者は、十年以下の懲役に処する。

 ディグリーミル関連では、「中央公論」2005年6月号に登場する非認定校の被害者も、まだ未成年で精神的に弱っていたときに、非認定大学なのに、アメリカでは公認された有名大学だからと口説かれ大金を支払い入学した。そして卒業証書は就職時もふくめ全く通用しなかった。もし被害者が届け出たり訴訟をおこしていれば、刑法の準詐欺罪が適用される。

5.「上司に通報する」とか「告訴する」とか相手を畏怖させる行為は犯罪でなくても脅迫罪になる。

*刑法222条脅迫罪
生命、身体、自由、名誉又は財産に対し害を加える旨を告知して人を脅迫した者は、2年以下の懲役又は30万円以下の罰金に処する。

 ディグリーミル関連では、以前、非認定大学の博士号についてたずねたクライアントに対して、非認定大学の博士号をもつカウンセラーが逆切れしたケースを紹介した。度が過ぎると脅迫罪になる。

「あなたは社会正義をふりかざして、自分の所の経営にまで口を出している。提携をやめろって言いたいんですか?」「自分のところのカウンセリングをやめてもいろんなところを回る繰り返しになるでしょうね。そうやっていつも1人になっていくんじゃないの」

6.非認定大学の一定の行為により学生が誤認し、又は困惑した場合について契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消すことができる。拒否した場合は消費者契約法違反になる。

*消費者契約法 第二章 消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し (消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示の取消し

第四条 消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。

 一 重要事項について事実と異なることを告げること。 当該告げられた内容が事実であるとの誤認

 二 物品、権利、役務その他の当該消費者契約の目的となるものに関し、将来におけるその価額、将来において当該消費者が受け取るべき金額その他の将来における変動が不確実な事項につき断定的判断を提供すること。 当該提供された断定的判断の内容が確実であるとの誤認

 ディグリーミル関連では、以下の被害者のように、アメリカでは有名大学だといわれて入学し、卒業したら就職や結婚のさいなどに通用しなかったという場合、この消費者法が適用できる。

「ここは、元々、ディグリーミルだったのでしょう。日本人がアメリカの教育制度を知らないことにいいことに、次々に大学志願者を騙しました。あの当時は、教授陣が誰であるかのさえわかりませんでした。もっともパンフレットには、顔写真が掲載されていましたが、どの教授がどの科目を担当するかは、公開さていませんでした。」

7.非認定大学関係者より公然と名誉毀損を受けた場合、刑法の名誉毀損罪が適応される。

*名誉毀損罪(刑法230条)。特定多数の者に知れるような状態で事実を摘示し、人の名誉を毀損した場合に成立する。3年以下の懲役、3年以下の禁錮、50万円以下の罰金。

 ディグリーミル関連では、2004年夏、非認定校のC大学の理事長が、事実誤認により、メールにて、筆者の勤務先大学に怒鳴り込んできて言いがかりをつけ、数度にわたり誹謗中傷と恫喝行為をおこなった。メールは学長、教職員など不特定多数を意識して送りつけられたもので、もし法的に訴えていれば、刑法の名誉毀損罪が適応された。

8.偽学位の詐称は軽犯罪法が適応される。

*軽犯罪法一条
 左の各号の一に該当する者は、これを拘留又は科料に処する。
十五
 官公職、位階勲等、学位その他法令により定められた称号若しくは外国におけるこれらに準ずるものを詐称し、又は資格がないのにかかわらず、法令により定められた制服若しくは勲章、記章その他の標章若しくはこれらに似せて作つた物を用いた者

9.教員をふくむ公務員が、偽学位の虚偽文書を作成した場合は公文書偽造罪に問われる。

*刑法・公文書偽造罪
第百五十六条   【 虚偽公文書作成等 】
公務員が、その職務に関し、行使の目的で、虚偽の文書若しくは図画を作成し、又は文書若しくは図画を変造したときは、印章又は署名の有無により区別して、前二条の例による。