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静岡県立大学・大学院食品栄養環境科学研究院

紫外線Ultraviolet rays

 光環境生命科学研究室では紫外線の生体影響について研究しています。ここでは、『紫外線についての基礎』、ならびにこれまで私たちが行った『紫外線に対する意識調査』について記述しています。
質問、コメントなどは、ibuki(@マークを入れてください)u-shizuoka-ken.ac.jpまでどうぞ。

地上に到達する紫外線―波長によって異なる紫外線の効果

 一口に紫外線といってもその波長によって性質が大きく異なります。太陽からの紫外線は大きく3つ、波長の短いから、UVC (200~280nm)、UVB (280~320nm)、UVA (320~400nm)に分類されます(右図1)。オゾン層によりカットされているのは、UVCとUVBの一部(<290nm)です。UVAに関しては、オゾン層にカットされることはなく地上に到達しています。ですから、仮に極域のようなオゾンホールが日本上空にできたとしても、UVA量は変化しません。UVBの増加と本来到達していなかった短波長UVB、UVCが到達することが大きな問題となります。
 では、それぞれの波長の紫外線の効果が全く異なることをお示ししましょう。下図2は皮膚の培養細胞に紫外線を照射した後の写真です。照射をしない細胞とUVAを照射した細胞では、細胞が張り付いてきれいに並んでいますが、UVBを照射した場合はわずかに、そしてUVCを照射した場合には非常に多くの細胞がはがれている(細胞が死んでしまったためです)のがわかります。これは、夏に急激な日焼けをした場合、皮がむけるのと同じ現象です。波長が短くなるほど、私達の皮膚にもたらす影響が大きいわけです。もしオゾン層が完全に破壊されてUVC領域の紫外線が地上に到達したら、生命体が存在できなくなることが容易に想像できます



紫外線はDNAに傷をつける

 私達は毎日といっていいほどUVAとUVB領域の紫外線を浴びています。紫外線は体内でビタミンDを作り出す効果がありますので、昔は『クル病』防止のために浴びた方がいいと考えられていましたが、現在では浴びないほうがいい、特に子供の紫外線対策は重要であると考えられるようになっています。その理由の一つを次にお話しします。

 UVA、UVB両波長の紫外線とも細胞中のDNA (遺伝子)に傷をつけます。特にUVBはそのエネルギーがDNAに吸収されやすく、ビリミジンダイマーといってDNA中の隣同士の塩基を結合してしまいます。大抵のものは私達の体に本来備わっている修復機構により修復されますが、たまに修復されずに細胞が分裂していきます。細胞は分裂するときにDNAを複製する、すなわち相補的な塩基(アデニン(A)とチミン (T)、シトシン (C)とグアニン(G))を配置しDNAを合成するわけですが、ビリミジンダイマーが存在すると、正しい塩基を配置できず間違った相補的でないDNAを合成してしまいます(図3)。細胞は分裂していきますから、この塩基の間違いがDNAの傷として、次々に細胞に受け継がれます。紫外線は一生に浴びる約半分を18歳までに浴びてしまうこと、子供は細胞分裂が盛んで、できた紫外線の傷は分裂細胞に受け継がれる、蓄積していくと考えると、特に子供に対する対策が必要であることがわかります。

紫外線は簡単に防ぐことができる

 では、どうしたら紫外線を防ぐことが出来るでしょうか? 表1にUVA、UVB量をそれぞれ100とした場合のラップ、ガラス、布、UVカットクリームでの紫外線のカット率を示します。 さすがにラップではほとんど紫外線をカットできません。UVカットクリームは使用量にもよりますが、完全に紫外線をカットできます。薄いガラスではUVBはカットされますが、UVAをカットすることはできません。家の中にいても、ガラス越しに紫外線を浴びているということです。
 一方、皆さん驚かれるのですが、薄い布一枚で非常に効率よく紫外線をカットすることができます。薄い服を一枚羽織ることにより紫外線を簡単に防御できるのです。私達は紫外線の傷を治す機構を元来備えていますので、いかなる紫外線も浴びてはいけないというほど神経質になる必要はありません。ただ、皮膚が赤くなるような急激な日焼けは、特に子供には避けるべきでしょう。簡単にできる紫外線対策を心がけてみたらいかがでしょうか。



紫外線に対する意識調査

調査対象
 
日本人は肌の色が黄色であり、白人よりもその影響が少ないため、紫外線に対する意識が低いのですが、ここ数年は紫外線を意識して生活される方も増えているようです。また、子供の頃は紫外線に当たってもしみやしわにならないので、紫外線の防護は大人になってから行えばいいと思いがちですが、紫外線によってできる傷は蓄積するので子供の頃からきちんとした対策が必要とされています。子供の紫外線対策については、自ら進んで紫外線について考える、そんな子供はいないでしょうから(多分)、親の意識が重要になります。では、紫外線に対して、子供を持つお母さん達はどのような意識を有しているのでしょうか。これまでに、私の研究室で行った紫外線防護に対する意識調査において、その一部をご紹介しましょう。小学生の子供を持つ母親(113人)にアンケートを行いました。また、その対照として大学生(男性43人、女性70人)へのアンケートを集計、解析しました。

紫外線に興味がありますか?
 
母親および大学生とも女性は9割以上が紫外線に興味を有していました。一方、男性(大学生)は約半数でした。

紫外線対策をしていますか 紫外線対策をしているかどうかを聞きました(右図1)。前の質問で紫外線に興味があると答えたグループでは、その対策も高い割合でなされていました。興味がないと答えたグループでは、その対策率は低く、男性にいたっては紫外線対策をしている人はいませんでした。
 では、紫外線に興味があるのに、なぜ対策を行わない方がいらっしゃるのでしょうか。紫外線対策を行うか否かはいずれの要因で決まるのでしょうか?




紫外線対策をするか否かはどこで決まる?
 
紫外線に興味があると答えた母親群、女子大学生群を対象にし、各群において、紫外線に対する知識の保有について調査しました。例えば、「日焼けサロンでは紫外線にあたる」、「SPFとはUVBをどれだけ防御できるかの値である」、「子供時代にあったった紫外線の量が将来のしわ、しみの量を左右する」など、 14項目の質問について、 その内容を知っているかどうかを尋ねました。14項目、すべてのデータをお示しすることはできないので、上述した項目だけをお示ししますが、女子大学生群では、紫外線対策をしていない人では、紫外線対策をしている人に比べ、明らかにその知識が少ない傾向がありました(下図2)。母親群では、紫外線対策をしている人もしていない人も、その知識の保有状況がほとんど同じでした。女子大学生群では、紫外線の知識が欠如しているためにその対策を怠ると容易に想像できます。一方、母親群はどうして知識を有しているのに紫外線対策を行わない人が出現するのでしょうか。
 紫外線の知識を問う14項目の中に、「紫外線カットクリームで紫外線を完全防御できる」、「紫外線は一枚の布でカットできる」という紫外線防護に関する重要項目が2つ含まれていました。前述のように、母親群では紫外線対策をしている人もしていない人も、その知識の保有状況がほとんど同じでしたが、この2項目に関してだけは、紫外線対策をしない人において、それを知らなかったと答える割合が多かったのです(下図3)。つまり、母親群は、家事、育児など非常に忙しいなどの理由から、紫外線対策を怠りがちですが、紫外線が簡単に防御できるということを知っていれば対策をする可能性があると考えられました。よって、紫外線の知識を正確に伝えることが重要であると考えられました。



自分に紫外線対策をする母親は子供にも対策を行う 
 母親が子供への紫外線対策をしているか否かについて、紫外線に興味があると答えた母親群を、自分に対策をしているグループとしていないグループにわけて調査しました。自分に紫外線対策をしているグループはしていないグループに比べ、子供への紫外線対策をしている率が高い傾向にありました(データ省略)。また、特筆すべきは、小学校でのプール授業などの際、紫外線カットクリームを使用することを認めて欲しいとする割合が、自分に紫外線対策をしているグループはしていないグループに比べ非常に高かった点です(図4)。子供の紫外線対策を行うためには、母親の紫外線に対する意識を改革することが重要であることが改めて示されました。



子供への紫外線対策について 
 紫外線に対する意識が高まる中、逆にその危険性を意識しすぎて、過剰の紫外線防護をする場合が見受けられます。私達は紫外線の傷を治す機構を元来備えていますので、いかなる紫外線も浴びてはいけないというほど神経質になる必要はありません。ただ、皮膚が赤くなるような急激な日焼けは、特に子供には避けるべきでしょう。皆さん驚かれるのですが、薄い布一枚で非常に効率よく紫外線をカットすることができます。簡単にできる紫外線対策を心がけてみたらいかがでしょうか。


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